ハラールとハラーム
神によって許されているため合法であることをアラビア語でハラールといい、禁じられているために非合法であることをハラームといいますが、ムスリムが宗教上食べたり飲んだりすることを禁止されているハラームなものは、種類がそれほど多いわけではありません。基本的にハラームである食べ物はアルコール、豚、血液、およびイスラム教の教えに従わずに屠殺された動物の肉であって、それ以外のほとんどの食品はハラールとして食べることを許されています。しかし、それらのハラームな材料を直接には使用していなくとも、ほとんどの日本の飲食業者や宿泊業者が提供する料理をムスリムが食べることができない理由は、多くの料理にハラームなものを由来とする成分が含まれているからです。また、多くの日本料理には酒やみりんが使用されますし、加工食品によく使用される乳化剤、ショートニング、マーガリン、ゼラチン、食用油脂、食品添加物のうちの多くには豚等のハラールでない動物性の原材料が使われています。ただし、製造工程で添加されたのではなく、醸造酢や醤油に自然に発生した後にわずかに残留しているアルコールについては問題としないムスリムも多いようです。また、同じムスリムでも、各々が従うイスラム法学派の考え、地域、または個人によって、ハラールに関する判断は若干の違いもありますが、基本的な部分は共通しているといえます。
原材料表示方法の問題
原材料自体の問題に輪をかけて状況をさらに困難にしているのが、ムスリム消費者の観点に配慮していない原材料表示です。実際にはハラールであっても、表示された原材料の情報からはハラールか否かの判断がつかないために、ムスリムが消費をためらう商品が多く存在します。例えば、多くの加工食品に原材料として含まれている乳化剤、ショートニングまたはマーガリンの中には、植物性の原材料のみを使用しているもの、ハラームな動物性の原材料を使用しているもの、または植物性およびハラームな動物性の原材料を両方とも使用しているものがあります。そして、原材料としての乳化剤やショートニングの表示のなかには、例えば、そのあとにそれぞれ括弧書きで「大豆由来」、「パーム油」と表示されているものもありますが、このように植物由来の原材料であることが明示されていれば、厳格な意味においてはそれがハラールであることの証明にはならないものの、多くのムスリムはハラールであると判断しています。しかし、残念ながら日本の市場における多くの加工食品の原材料表示にはそのような説明がありません。
ハラールな外食をすることがいかに困難か
ムスリムが外食をすることができる施設を街中で見つけることは極めて困難であるというのが今の日本の状況です。そして、ハラールな食事を提供する飲食店が見つからないために、ムスリムがコンビニエンスストアに入って商品の原材料表示を確認したとしても、牛乳、バナナ、ゆで卵、および数点の食品しかハラールと考えられるものを見つけることができないでしょう。しかし、ムスリムは、ハラールなものがない、またはハラールであることが確認できない場合には、空腹なので仕方なく何でも食べてしまうということをしません。イスラーム圏ではほとんどの飲食店がハラールな食事のみを提供しているため、何の心配もなくどこの飲食店にも入ることができる一方で、日本では飲食店が提供する食事や一般に販売されている加工食品のほとんどがハラールではないということが、日本を訪れたムスリムが旅行または日常生活をする上での大きなストレスになっています。
日本でハラールな食事をしたければハラール認証を得た飲食店を探せばよいとはいえ、実際には、そのような店舗やムスリムフレンドリーの看板を掲げる店舗は非常に数が限られています。また、大半が個人で旅行を手配しているムスリム観光客を事業者が顧客として獲得するためには、サービス内容の英語による説明が不可欠ですが、ムスリムに対応したサービスを旅行代理店を通した予約のみに限っているために、メニューにはハラールな料理を掲載しない、またはウェブサイトにさえムスリム対応についての英語による説明がない事例も見受けられ、この場合、訪日するムスリム観光客にとっては、来日前に旅行代理店を通して予約したハラール対応のホテルやレストランで食事をする以外に、観光地や街中で自由に日本の食べ物を楽しむ機会が極端に制限されることになります。さらに、ムスリムフレンドリーの看板が掲げられていても、単に「ノンポーク、ノンアルコール」という対応または表示がされているだけならば、宗教上の食の規範についての正しい知識を持っているムスリム消費者は提供されている食事をハラールだとは判断せずに敬遠するでしょう。
その土地の食べ物を楽しむことは、旅先での最も大きな喜びの一つですが、多くの海外のムスリムにとっては、ハラールな食事をすることの困難さが日本に旅行に行くことへの大きな障壁になっています。よって、私たちがこの問題を解決できれば、日本に観光に行きたいが躊躇している多くの人々を日本への観光に呼び込むことも可能になります。
日本で生活するムスリムの家庭での食事
日本で市販されている加工食品の多くは、豚またはハラームな動物に由来する原材料が使用されているため、ムスリムが食べることはできません。例えば、パッケージに入った加工食品の多くには乳化剤が使用されていますが、それが植物由来のハラールなものなのか、豚やハラームな動物の油脂から製造されたものなのかが明らかにされていません。また、野菜の天ぷらや魚のフライは本来であればハラールですが、豚肉や他のハラームな動物の肉またはそれらに由来する原材料が含まれた食品を揚げるために同じ油が使用されていれば、総菜売り場のそれらの食品にはハラームな物質が混入していることになります。しかし、ほとんどの加工食品を購入することができないことは決して小さな問題ではないものの、日本に生活するムスリムが家庭で料理をつくる場合の問題は、外食をする場所が著しく限られている問題よりも深刻度は低いといえるでしょう。なぜならば、野菜、果物、穀物、鶏卵、魚介類等の生鮮食品や牛乳、香辛料、塩、砂糖等の加工食品はすべてハラールと考えられているとともに、どこのスーパーマーケットでも調達することが可能であり、また、ECサイトやハラール食品専門店でハラール認証のある牛、羊、山羊、鶏、アヒル等の肉を購入することも容易であるため、日本に住むムスリムは、家庭においては、それらの食材から多種多様な料理をつくり楽しんでいるからです。
ムスリムへの対応方法
日本において、ムスリムである消費者にその料理(食品)を食べても大丈夫だと判断してもらうためには、基本的に2つの方法があります。1つはハラール認証機関に依頼して、特定の料理(食品)についてハラール認証を得る方法です。この場合のメリットは、ムスリムの不安をほぼ完全に払拭できることです。しかし、デメリットはかなりのコストがかかるとともに、そのコストも一回限りのものではなく、例えば年ごとに更新するなど永続的な負担が発生することです。さらに、メニューを増やしたり、原材料を変更したりするたびに新たな検査が要求されることは、コストの増加のみならずビジネスにおける迅速性や柔軟性が奪われることをも意味します。ここで注目すべきことは、ムスリム消費者はハラール認証のある食品だけを食べているわけではなく、各々が持つイスラム教の食の規範についての知識から食べられる食品を選択しているという事実です。よって、ハラールに分類される原材料のみでつくられている料理(食品)については、適切な方法で原材料についての表示をすれば、多くのムスリムは自分でハラールであるかどうかを判断することができます。貴社が販売する料理(食品)のなかにも、実質的にハラールなもの、または一部の原材料をハラールなもので代替するだけでハラールになるものがあるのではないでしょうか。そこで、私たちは、もう1つの方法をお勧めしています。それは、事業者自身がハラールに関する基本的な知識を持つとともに、ムスリムが摂取することができる原材料のみを使用して料理(食品)をつくり、その原材料に関する情報をムスリム消費者の観点に配慮した適切な方法によって表示することです。また、ムスリムの摂取することができない原材料を使用している料理(食品)については、多くの場合において、一部の原材料を代替の原材料で置き換えることによりハラールな料理(食品)に変えることが可能です。
当社のコンサルティング
ムスリムフレンドリーといえるサービスを提供するためには、ハラールでない食材を避けるだけでなく、原材料とサービスの内容については、ムスリム消費者の観点に立った表示を行うことによって、料理(食品)がハラールであることをムスリム消費者自身が判断できるようにすることが重要です。また、ムスリム消費者の多くは日本語の表示を理解することが困難である点を考慮し、表示は日本語と英語の2か国語を併記するのが望ましいでしょう。当社のコンサルティングでは、ハラール認証に頼らない事業者独自のムスリムフレンドリーサービスの方法についての具体的な提案をするだけでなく、その計画から英語による表示内容の作成に至るまでを一貫してお手伝いします。また、飲食店や宿泊施設だけでなく、学校、病院その他の公共施設または地域においてムスリムのニーズに応えるためのご相談も承っております。